私達は今、たいまつで照らされた壁画を見上げていた。そこには禍々しい太陽の絵が描かれている。太古の時代に二つ目の太陽が現れ、海は枯れ、大地が焼かれる災厄を引き起こしたみたい。驚くことに二つ目の太陽は自由に移動し、災厄をまき散らしたという。ここはわたし達の村の北にあり、普段は誰も近づいてはいいけない事になっている、清き水の洞窟の中だ。洞窟を先に進むとエルフ、ウエディ、プクリポ、ドワーフ、オーガという種族がかつて存在していたことが壁に描かれている。わたしが錬金術に失敗して、村の人たちに怒られたときに逃げ込み、ほとぼりが冷めるのを待つ、いしずえの森の石碑とおなじ絵だ。同じ人が描いたのだろうか?
あ。そういえば、自己紹介がまだだったね。私の名前はマグナ。エテーネの村で暮らす凄腕錬金術師だよ。え、失敗して森に逃げ込むって言ってなかったか?って。まあ、細かいことは気にしない、気にしない。(今朝も村の長で巫女であるアバさまの大好物のハツラツ豆を増やしてあげるつもりが、今年最後の豆を駄目にしてしまい、森に逃げこんだことは秘密にしておこう。)
森で錬金術の実験を行っていると、アルスお兄ちゃんがやってきてアバさまがお呼びだという。アバさまは、私たちが住むエテーネの村の村長。そして、村に祀られている神の使いであるカメさまのお告げを伝える巫女なの。私達の村に魔物が入ってこないのはアバさまの結界があるおかげみたい。
(ハツラツ豆のことで怒られると思い、ドキドキしながら)村へ戻ると、アバさまは村の全員を集めこう言ったの、
「この村に災厄が訪れ、この村は滅んでしまう。」
この言葉に驚く村人たち、でもアバさまはこう続けた、
「この村の北にある清き水の洞窟に咲くテンスの花を手に入れれば、滅びは逃れることができる。シンイ、アルス、マグナ。そなたら3人でテンスの花を探してくるのじゃ!」
その時、周りから叫び声が上がる。
「魔物だ!」
物陰から飛び出してきた玉ねぎの姿をした魔物をアバさまの孫のシンイさまが炎の呪文で退けた。
「アバさまの結界があるのになぜ、村に魔物が?」村人たちが騒ぎ出す。アバさまも魔物が村に入ってきたことに驚きを隠せない。
この村はエテーネの村。遠い昔に滅んだエテーネの民の生き残りが暮らす村だ。この村の守り神であるカメさまが、世界の真ん中に位置するというこの島に空から舞い降りカメ様の力により身を隠したものが生き残り暮らしている。アバさまは代々カメ様のお告げを皆に伝え、魔物が村に入らぬように結果を張っている巫女の末裔で、現在村を治めている。アバさまの結界が破られたことはこれまでなかった。やはり災厄が迫っているのだ。
シンイさまに促され、わたしとお兄ちゃんは、シンイさまとともにテンスの花を探しに行くことになった。
洞窟の奥には重厚な扉があり、シンイさまがその扉開いた。扉を開けると、天井の高い空間が広がっており、とてもきれいな水が湧き出ていた。そして湧き水の向こうにきらめく花畑が見えた。
「あれがテンスの花です。」シンイさまがつぶやく。私たちが花に近づこうとしたその時、私たちの目の前に、黒い霧のようなものが立ち込め、テンスの花は炎に包まれた。
驚いて上を見上げると、輪っか状の物を手にした、おじいさんが空中に浮かんでいた。頭には不気味な文様があった。
「魔物だ!」お兄ちゃんが叫ぶ。魔物が語り掛けてくる。
「お前たちは、エテーネの民の生き残りだな。時を渡る力を持つ、忌々しい者たちの。」
「時を渡る力?」魔物の言葉に驚くシンイさま。
「わしは魔導鬼ベドラー。万が一に備え、この花を探しに来て成果じゃったわ。ここで花とともに燃え散るがよい。」問答無用で襲い掛かってくるベドラー。ベドラーが噴き出す黒煙をよけ、お兄ちゃんが切りかかる。それを浮き上がりかわすベドラー。「アルスさん伏せて。」
シンイさまが炎の呪文をベドラーに放つ。炎の塊がベドラーを直撃し、ベドラーが地に落ちる。すかさずお兄ちゃんが、ベドラーに切りつけた。ベドラーの体から霧のようなものが噴き出し、体が崩れ始める。
「おのれ、エテーネの民め。じゃが、わしの役目は果たした。後はネルゲルさまが・・。」
霧が晴れるように消え去るベドラー。
膝から崩れ落ちるシンイさま。「テンスの花がみんな燃えてしまった。」
周りを見渡す私たち。その時、私の目に奥の岩肌の近くで何かが光ったのが見えた。「あそこ。」私は指をさす。近づいてみると、一輪だけ、テンスの花が咲いていた。喜ぶシンイさま。
「ここに魔物が現れたんだ。村が心配だ。」お兄ちゃんが言う。私たちは急いで洞窟を出た。
空は黒い雲に覆われ、草原を跋扈していた魔物たちの姿が全く見当たらなかった。そして、閃光とともに雷鳴が轟いた。村に戻ると、そこら中に炎が上がっていたおり、魔物たちが家を破壊し、村人たちが倒れていた。
「私は、おばあさまにテンスの花を届けます。」シンイさまが村の奥へと駆けていく。私がその背中を見送り、振り返ると空を飛ぶ魔物が私に向かって炎を吹きかけてきた。「避けられない。」そう思って目を閉じる。「マグナー。」お兄ちゃんの叫び声が聞こえ、お兄ちゃんの手のひらから光が放たれた。その光が私を包むと、お兄ちゃんとシンイさん、そして魔物たちまでもが、動きを止めていた。「え、何、これ。」時が止まったように見えた次の瞬間、体に違和感を覚えた。「いやぁぁー。お兄ちゃん、私を一人にしないで!!」私の叫び声だけを残して、私の姿は消えてしまったみたい。そのあとの話は後にお兄ちゃんに聞いた話だけど、その光景を空から見ていた者がいて、そいつはこう言ったらしいの。
「やはり、時渡りの能力を持った者が現れたか?」「ネズミ一匹逃したところでどうということもない。この冥王ネルゲルの行く手を阻むことはできない。」「時渡りの能力者よ、地獄の灼炎で燃やし尽くしてやる。」
そして、お兄ちゃんに炎を放った。お兄ちゃんの記憶もここまでで、気が付くと、神殿のような場所にいたんだって。そして、お兄ちゃんにこう語りかける者がいた。「エテーネの民よ。聞きなさい。あなたは冥王の手により命を落としました。しかし、その魂にはまだやるべき使命があります。」「隔絶された島で暮らしていたあなた方は知りませんが、この世界には五つの種族が暮らす大陸があり、名をアストルティアといいます。」「今からあなたに五つの神が力を借してくれます。」「本日、不幸にも命を落とした若者の体を借りて使命を果たすのです。」その言葉に驚きつつもお兄ちゃんが神殿の中を見渡すと、いしづえの森の石碑に描かれていた種族の像が立っていたの。語り掛ける声に導かれるままに祈りをささげて気が付くと、プクリポの青年「アルス」として棺桶の中で寝覚めたの。
エテーネの村のおはなし Fin.
コメント